シリーズ労災保険④ そもそも通勤とは?

今回のブログでは、労災保険における通勤災害の根本となる、そもそも通勤とは一体どのような行為を言うのかについて、分かりやすく解説していきたいと思います。

 

通勤災害とは?

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労災保険では、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷等に対して保険給付を行うとされています。

 

通勤途上の事故等によって労働者が負傷した場合に、労災保険の適用を受けることができる事故のことを通勤災害と言います。

 

それに対して、業務上の事故で労働者が負傷等をして、労災保険の適用を受けることができる事故のことを業務災害と言います。

 

このように労災保険では、仕事中のケガだけではなくて、通勤途上の事故等によって 労働者が負傷した場合にも保険給付を行うこととされています。

 

 

ところで、元々労災保険の正式名称は、労働者災害補償保険法と言います。

 

文字通り、労働者を補償の対象としています。

 

ところで、通勤は、これは基本的には業務ではありません。

 

つまり労働ではありません。

 

ですから、通勤の途中は、厳密に言えば労働者ではないこととなります。

 

 

しかし、通勤は、労働と密接な関係があります。

 

通勤がなければ、労働者は、自宅から会社に行くことができないこととなります。

 

ですから、労災保険では、業務と密接な関係にあるために、通勤途上の事故によって労働者が負傷等した場合にも保険給付を行う制度となっています。

 

通勤災害と認められるための条件とは?

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通勤途上の事故等によって労働者が負傷した場合に、労災保険の適用を受ける事故のことを通勤災害と言いました。

 

つまり、通勤途上の事故等でケガ等をした場合に、労災保険から補償を受けるには、その事故が通勤災害と認められる必要があります。

 

では、通勤災害と認められるには、どのような条件を満たしている必要があるか、ここについてお話したいと思います。

 

 

まず、通勤途上の事故については、基本的にはどのような事故であったとしても、労災保険の対象となります。

 

もちろん、通勤途上において、労働者が故意に事故を起こして、負傷等を負った場合には、保険給付の対象とはなりませんが、通常は、労働者が故意に事故を起こすことはなく、故意ではなくて、偶発的な要因によって、事故が起こってしまうケースがほとんどです。

 

ですから、通勤途上による事故によって負傷等すれば、通常は、労災保険の対象となります。

 

となると、通勤災害に該当するか否かの条件は、特別考える必要はないと思われるかもしれませんが、実は、通銀災害で問題となってくるのが、そもそも、通勤に該当するかどうかということです。

 

つまり、労災保険の適用となるには、通勤途上の事故による負傷等ですので、労働者の移動行為が、通勤に該当している必要があります。

 

では 労災保険が規定する通勤とは、どのようなものなのか、ここについてお話していきたいと思います。

 

労災保険では通勤を、就業に関して、次に掲げる3つの移動を合理的な経路及び方法により行うこととされています。

 

① 住居と就業の場所との間の往復

② 就業の場所から他の就業の場所への移動

③ 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動

 

なお、業務の性質を有するものは除くとされています。

 

つまり、見た目は、通勤だけど、それが業務の性質を有している場合は、それは通勤とはみなさない、業務とみなす、このような取り扱いをします。

 

では、通勤について具体的にご説明していきたいと思います。

 

3つの移動

通勤として認められるためのポイントは、3つの移動と合理的な経路及び方法となります。

 

最初に3つの移動についてご説明していきたいと思います。

 

まず、住居と就業の場所との間の往復があります。

 

これが、通常の通勤となります。

 

住居、つまり自宅と就業の場所、通常は、自分が勤めている会社との往復の移動です。

 

ここはご理解いただけるかと思います。

 

 

ただし、住居と就業の場所との間の往復に関しては、いくつか注意すべき点があります。

 

まず就業の場所ですが、通常は、自分が勤めている会社となりますが、しかし、業務の種類によっては、必ずしも会社には行かない場合もあります。

 

例えば、営業社員の場合、取引先に直接行くというケースがあります。

 

建設会社に勤めている労働者であれば、直接工事現場に行くというケースも当然あるかと思います。

 

このようなケースの場合には、取引先や工事現場が、就業の場所となります。

 

従って、自宅から取引先あるいは自宅から工事現場に行く途中に、事故が発生し負傷等した場合には、労災保険の適用となります。(ただし、後述する合理的な経路及び方法の条件を満たす必要があります。)

 

 

次に住居ですが、通常は自宅となります。

 

しかし、自宅以外にも住居と認められるケースがあります。

 

例えば、遅くまでの残業が多く、自宅に帰る電車の終電に間に合わない場合が多いので、会社の近くにアパートを借りるケースも考えられます。

 

その場合、自宅に帰らずに会社から借りているアパートに帰って、翌日は、アパートから会社に向かう、このような移動もあります。

 

このようなケースも、住居と就業の場所との間の往復に該当することとなります。

 

つまり、住居も就業の場所も必ずしも1つだけではなく、それ以外の場所であったとしてもそこに合理性が認められれば、住居あるいは就業の場所とみなします。

 

 

次に、就業の場所から他の就業の場所への移動についてご説明したいと思います。

 

昨今 「ダブルワーク」という言葉をよく聞くかと思いまが、国が副業を推奨することによって、多くの労働者がダブルワークあるいはトリプルワークを行うようになってきています。

 

「就業の場所から他の就業の場所への移動」は、それに対応したものです。

 

 

例えば、ある労働者が、昼間はA会社に勤めていて、夜はB会社に勤めているとした場合に、朝は、自宅からA会社に向かうのですが、A会社の仕事が終わった後、直接B会社に行く、このようなケースは当然考えられます。

 

このようなケースの場合、自宅からA会社、B会社から自宅までの移動は、当然通勤となります、労災保険では、A会社からB会社への移動も通勤と考えます。

 

また、トリプルワークということで、B会社の勤務後、さらにもう1つ別のC会社に勤めるのであれば、B会社からC会社への移動も通勤となります。

 

 

では、最後に「住居と就業の場所との間の往復に先行し又は後続する住居間の移動」についてご説明したいと思います。

 

これは、単身赴任等のケースを想定しています。

 

例えば、自宅が東京にあって、東京の本社に自宅から通っている労働者がいたとします。

 

そして、その労働者が、大阪支店に転勤になったため、東京の自宅から大阪支店に通うのは難しいので、大阪支店の近くのマンションを借りたとします。

 

大阪のマンションが、赴任先の住居となってきます。

 

この労働者が、毎週末に東京の自宅に戻るとします。

 

例えば、週末に東京の自宅に帰っていた労働者が、日曜日の夜に大阪のマンションに戻って、月曜日に大阪支店に出勤をする場合、大阪のマンションから大阪支店への移動は、当然、①の「住居と就業の場所との間の往復」に該当し、通勤となりますが、労災保険では、東京の自宅から大阪の赴任先住居への移動も通勤とみなすこととなります。

 

ところで、「住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動」になぜ「先行」という言葉があるかといいますと、月曜日に大阪の赴任先住居から就業の場所(大阪支店)へ移動しますが、東京の自宅から大阪の赴任先住居への移動は、それより前の日曜日の夜に行われています。

 

ですから、「先行」という言葉を使っているのです。

 

 

それに対して「後続」は、逆となります。

 

週末、東京の自宅に戻る場合、一旦 赴任先住居に寄って着替え等をして、東京の自宅に帰るケースというのがほとんどかと思います。

 

このような場合、大阪の赴任先住居から東京の自宅への移動は、就業の場所(大阪支店)から赴任先の住居への移動の後に行われる移動となります。

 

ですから、「後続」という言葉を使っているわけです。

 

 

ただし、「住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動」の場合、自宅から転勤先まで60km以上の距離がある等、一定の条件がありますので、詳しくは労働基準監督署等のご確認下さい。

 

合理的な経路及び合理的な方法

では次に、労災保険において通勤と認められる場合のもう1つのポイントである、合理的な経路及び合理的な方法についてご説明したいと思います。

 

労災保険で通勤と認められるには、単に先程ご説明した3つの移動に該当すれば良いわけではなく、その移動が合理的な経路及び合理的な方法によって行われる必要があります。

 

労災保険において、合理的な経路及び合理的な方法は非常に重要な考え方となります。

 

まず合理的な経路についてご説明したいと思います。

 

実は、この合理的な経路については、あまり深く考える必要はありません。

 

基本的には、労働者が一般的に使う経路が合理的経路とされています。

 

 

少し具体例でお話していきたいと思います。

 

先程ご説明した3つの移動の中から、最も基本的なパターンである「住居と就業の場所との往復の移動」を基にご説明したいと思います。

 

そして、自宅と会社との間を、車を使って移動する前提でご説明していきたいと思います。

 

先程ご説明したように、合理的経路は、労働者が一般的に使う経路とされていますが、労働者が一般的に使う経路とは、どのような経路となってくるのでしょうか?

 

通常、車で会社に向かう場合は、最短距離あるいは交通量が少ない道路または一番運転しやすい道路、このような道路を通って移動するのが一般的と思います。

 

実は、それらは全て合理的な経路に該当してきます。

 

 

さらに、ある労働者が、通常、自宅と会社との間を最短距離の経路で移動していたとします。

 

しかし、場合によっては、この経路の途中に工事渋滞が発生する場合が考えられます。

 

その場合、当然迂回していく形となります。

 

このような場合、通常使用している経路から外れる形となりますが、この経路も合理性が認められますので、通常とは違う経路であっても、労災保険では、合理的な経路となります。

 

 

さらに、別のケースで考えてみたいと思います。

 

先程のケースでは、最短距離の経路と言いましたが、交通事情等の理由によって、帰りには別の経路を使った方が、早く帰ることができる場合も考えられます。

 

このような場合も合理性が、考えられます。

 

つまり、合理的な経路とは、出勤時と退社時と必ずしも同じ経路である必要ありません。

 

 

さらに、出勤時の経路でも、曜日等によって経路を変えた方が、早く会社に着くことができるケースも考えられます。

 

このようなケースも、当然合理性が考えられます。

 

つまり、合理的経路は必ずしも一つだけではなく、複数あるケースもあります。

 

このように車で通勤する場合には、ある一定の範囲であればどの道でも合理的経路と基本的には認められます。

 

ただし、どこまでの範囲まで認められるか。というのは一概には言えないのですが、どの経路であっても、何らかの合理性が認められれば、合理的な経路と認められると言えます。

 

 

さらに、合理的な経路を、今度は車両以外の通勤手段を含めて、もう少し深く考えてみたいと思います。

 

普段は、車で通勤していますが、たまたま車が故障してしまって、バスで会社に行かなければいけない、このようなケースも考えられるかと思います。

 

労働者は、自宅からバス停まで歩いてバスに乗って、さらに会社近くのバス停でバスを降りて会社まで歩いていくかと思います。

 

このような場合のケースは、通常車で通る経路とは違ってくるかと思います。

 

しかし、その日に限っては バスに乗らなければ、会社に行けないわけですから、バスでの経路も 当然合理的経路として認められるわけです。

 

つまり、合理的経路は 元々決まっているものではなくて、その日にその日に使った通勤の経路に合理性があるかどうかで判断されることとなります。

 

従って、極端な話、毎日会社への経路が違っていても、それぞれに合理性があれば、全て合理的な経路となります。

 

合理的経路は、度柔軟性があると言えます。

 

 

ここで、合理的経路の柔軟性をよりご理解いただくために、一つ実際に私が経験した事例をご紹介したいと思います。

 

顧問先の担当者の方から相談がありまして、顧問先の女性労働者が、通勤途上で交通事故に遭ったとのことでした。

 

その労働者は、通常は住居から会社に車で通勤していました。

 

 

ところで、その労働者にはお子さんがいました。

 

そのお子さんは、保育園に行っているのですが、その保育園は、ご主人様が、会社に行く経路の途中にあったものですから、いつもは、ご主人様が、会社へ行く途中に保育園にお子さんを預けていました。

 

しかし、ある日、ご主人様が出張で、その労働者が、お子さんを保育園に届けなければいけない事態が発生しました。

 

そして、その保育園は、その労働者の会社の方向とは、逆の方向にありました。

 

ですから、この場合、その労働者は、会社とは逆の方向へ行き、保育園にお子さんを預けて、そして会社に向かうという経路を取ることになります。

 

 

この場合、会社とは逆の方向へ行くわけですから、合理的な経路とはならないように思われますが、しかし、その労働者が、会社とは逆の方向へ向かったのは、お子さんを保育園に預けなければならないという、やむにやまれぬ事情があります。

 

ですから、このような場合には、たとえ会社とは逆の方向へ行く経路を使ったとしても、その経路には合理性あるとみなされる可能性が十分に考えられます。

 

ですから、その労働者が、自宅から保育園に向かう途中に事故等に遭い、負傷した場合には、労災保険が適用となる可能性は十分考えられます。

 

このように、合理的な経路の考え方は、ある程度の範囲で柔軟に考えられます。

 

 

では、次に合理的な方法についてご説明したいと思います。

 

実は、合理的な方法も難しく考える必要はありません。

 

鉄道、バス等の公共交通機関または自動車、自転車、徒歩等の通常使われる交通手段であれば基本的には合理的な方法とみなされます。

 

合理的な方法をご理解していただくには、合理的な方法が否認されるケースを考えてみると良いかと思います。

 

鉄道とかバス等の公共交通機関を利用する場合には合理的な方法として否認されることはまずありません。

 

 

合理的な方法が否認される可能性があるのは、自動車または自転車、徒歩の場合にお酒を飲んで移動した場合には、道路交通法違反となってしまうため、合理的な方法とは認められない可能性が考えられます。

 

また車両の場合、無免許で移動していた場合にも、合理的な方法が 否認される可能性があります。

 

 

ただし、ここで難しいのが、合理的な方法が否認される、基準が決められていないのです。

 

お酒を一滴でも飲んだら合理的な方法が否認されると決められていれば、難しくはないのですが、お酒を飲んでも自動車、自転車で移動した場合でも、合理的な方法とみなされる可能性はゼロとは言えません。

 

特に徒歩の場合は、余程泥酔状態でなければ、合理的な方法が否認される可能性は低いと言えます。

 

ただし、合理的な方法として認められるか認められないか、それ以前の問題で一滴でもお酒を飲んだら、徒歩はともかくとして、自動車または自転車は、運転してはいけない、これは労働者に周知徹底させる必要があります。

 

 

では、ここで合理的な方法について、一つ私が経験した事例についてお話したいと思います。

 

以前、私が、整骨院でマッサージを受けている時に、隣で同じようにマッサージを受けているお客さんと整体師さんがいました。

 

その整体師さんが、お客さんと話をしていて、「先日、うちの会社の従業員が、通勤途中に事故に遭って、結構ひどかったのです。ただその従業員が、会社への移動手段をバスで届出してあったのに、その日は、自転車で通勤していたのです。だから、労災保険の対象にならないから、申請ができなかったのです」とこのような話をしていたのです。

 

私は、それを聴きながら、「残念だな、知らないということはこういうことなのだ。労災保険対象になる可能性が十分あるのに・・・」と思いました。

 

 

実は、この合理的な方法の考え方も、先程ご説明した合理的な経路と同じ考え方をします。

 

つまり、合理的な方法かどうかの判断は、その日その日の通勤の移動手段に合理性があるかどうかをそれぞれ判断していく形となります。

 

ですから、今日はバスだけど、次の日は自動車、次の日は自転車、このように移動手段が、毎日変わった場合でも、それぞれに合理性があれば、合理的な方法となります。

 

ですから、整骨院の従業員の方が、先程説明した飲酒した状態で自転車を運転でもしない限り、自転車での通勤は何の問題も生じません。

 

ですから、合理的な経路上での事故であれば、当然労災保険の対象となってきます。

 

つまり、労災保険の対象となるかどうかの判断に、会社に届出してある移動手段は、基本的には全く影響を与えないこととなります。

 

 

また、これは合理的な経路の場合も同じような考え方をします。

 

会社によっては、通勤経路を提出させる会社もあります。

 

しかし、通勤上の事故が、仮に会社に提出した経路以外の経路であっても、その経路自体に合理性があれば、労災保険の対象となります。

 

このように合理的な経路及び方法は、その日その日の経路及び方法に合理性があるかどうかを客観的に判断することとなり、会社への届出等は、基本的には影響を与えないということは、是非知識として覚えておいていただければと思います。

 

外見は通勤だけど通勤にはならない

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ここでは、少し視点を変えて、外見は通勤に見えるけど、通勤としては取り扱われないケースをご紹介していきたいと思います。

 

繰り返しになりますが、労災保険において通勤とは、先にお話した3つの移動を合理的な経路及び合理的な方法で行うことを言います。

 

 

ただし、それが業務の性質を有するものは除くとされています。

 

つまり、通勤の要件を満たしていても、業務性を有しているものは、労災保険では通勤とは扱わず、業務として扱う形となります。

 

では、具体的に外見は通勤だけど、通勤とは取り扱われない事例をいくつかご紹介していきたいと思います。

 

会社が提供する専用交通機関を利用しての出退勤

会社によっては送迎バスを用意する会社もあるかと思います。

 

このような場合、従業員は、自宅から特定の場所に集まり、送迎バスに乗り、そして帰りは、送迎バスで朝集まった所まで行き、そこから自宅に帰る形となります。

 

このようなケースの場合、送迎バスに乗っている間も、外見上は住居と就業の場所との間の往復となります。

 

さらに、合理的な経路及び合理的な方法に関しても問題はありません。

 

ですから、送迎バスに乗っている間も通勤として取り扱われると思われるかもしれません。

 

 

しかし、送迎バスは、会社が用意するものであり、送迎バスに乗ることは、会社の指示、命令によります。

 

ですから、送迎バスに乗っている間は、会社の支配下にあると考えられるので、業務の一部として取り扱われます。

 

従って、送迎バスに乗車中に事故等で負傷等した場合には、通勤災害ではなく業務災害の取り扱いとなります。

 

 

ちなみに、このようなケースでは、自宅から送迎バス乗り場間の移動が通勤となります。

 

ちなみに、会社が寮を持っていて、寮から会社まで送迎バスを使っている場合には、寮から送迎バスに乗った時点で業務が始まっている形となります。

 

つまり、寮の玄関から送迎バスまでの間の移動が通勤となります。

 

となると、極端な例として、送迎バスが玄関前に停まって、玄関から送迎バスまで2歩程度の場合は、その2歩が通勤となります。

 

緊急用務のため会社から呼び出され休日または休暇に出勤

今度は、実際に自宅から会社へ行く場合であっても、通勤とはみなされないケースをご紹介したいと思います。

 

ある労働者が、休日に自宅で休んでいた時に、会社から電話がかかってきて、「会社で大きな事故があったからすぐ来てくれ。」というふうに呼び出されたとします。

 

このような場合、労働者は、普段と同じ経路及び手段で会社に向かいます。

 

 

しかし、このように緊急に呼び出された場合は、その時点から業務が始まっているとみなされます。

 

通常は、始業時刻が決まっていますので、その時点から業務開始となりますが、今回の事例のように緊急に呼び出された場合には、その時点で使用者の指示、命令により支配下に置かれていると考えられることとなります。

 

ですから、普段と同じ通勤の形を取っていても、それは業務中とされます。

 

 

ただし、ここで1つ注意すべき点があります。

 

今ご説明したように、休日に緊急で会社に呼び出された場合には、自宅から会社へ行く行為は、通勤ではなく業務となります。

 

しかし、会社での業務(今回のケースでは事故処理)を終え、会社から自宅へ帰る時は、この時点では、使用者の支配下から離れた形となりますので、会社から自宅へ移動する行為は、通勤となります。

 

 

ところで、今回の事例で、自宅から会社までの移動が、通勤ではなく業務とみなされるのは、休日に緊急に呼び出されるという前提があります。

 

ですから、単に仕事が遅れているから、休日に会社へ行って休日労働する場合には、通常の勤務と変わらないわけですから、このような場合には、自宅から会社への移動は、当然通勤となります。

 

通勤途中に取引先等に寄る

最後にもう1つ外見は通勤だけど、通勤とはみなされないケースをご紹介したいと思います。

 

実は、これからご紹介する事例は、労務管理において、非常に重要なポイントとなりますので、ご注意いただければと思います。

 

通勤の途中に取引先等に寄るケースは、日常的に行われているかと思います。

 

 

例えば、労働者が、朝会社に行く途中に取引先によって仕事を済ませて出社したり、あるいは、会社から帰る途中に取引先に寄って書類を届けてきたり、このようなケースが考えられます。

 

朝会社に行く途中に取引先に寄って仕事を済ませるという行為は、当然業務となります。

 

ですから、朝取引先に寄った時点で業務が開始となります。

 

つまり、その労働者にとって、その日の就業の場所は取引先となることとなります。

 

従って、その労働者にとって、取引先に寄った時点で、その日の通勤は終了したこととなります。

 

ですから、取引先から会社まで移動する行為は、たとえ通常の通勤経路及び方法であったとしても、業務となります。

 

 

会社から帰る途中に取引先に寄る場合も同じ考え方をします。

 

取引先に寄るまでが業務となり、取引先から自宅までの移動が通勤となります。

 

その労働者にとって、帰る場合の就業の場所は、取引先となるわけです。

 

この考え方は、さほど難しくはないかと思います。

 

 

では、先程言いました、このようなケースが、なぜ労務管理において非常に重要となるかについてご説明したいと思います。

 

地方では、車による通勤が、ごく当たり前に行われています。

 

ですから、通勤中に労働者が、自動車事故を起こしてしまって、第三者を負傷等させてしまう可能性が考えられます。

 

もし、純粋な通勤途上の事故であれば、冒頭にもお話しましたように、通勤は、労働ではないものですから、基本的に会社に責任がおよぶことはありません。

 

しかし、今ご説明したように、朝取引先に寄って以降あるいは帰りに取引先に寄るまでの間は、業務中となりますので、この間に労働者が交通事故等を起こし、第三者を負傷させてしまった場合、会社の使用者責任が出てきます。

 

 

ところで、たとえ交通事故が発生した場合でも、車両の自動車保険で補償をすることができるわけだから、道義的責任はともかくとして、金銭的な問題は、解決できるのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 

しかし、問題となってくるのが、その自動車保険の契約者は、労働者個人となってきます。

 

会社が契約に関与できないとなると、補償が不十分だったり、保険自体をかけ忘れてしまうケースが考えられます

 

しかし、たとえ保険金が不十分であったり、保険が未加入であったりしても、会社の責任は免れないわけです。

 

となると、会社は、莫大な慰謝料等を自ら支払わなければならなくなるケースも考えられます。

 

最悪、倒産の危機に見舞われてしまう可能性もあるのです。

 

 

ですから、通勤途上に取引先等に寄る行為には、大きな盲点があるのです。

 

この点は、今回のテーマとは外れてしまいますが、通勤においては非常に重要なポイントとなってきます。

 

なお、今ご説明した通勤途上での業務の盲点に付きましては、こちらの動画で詳しく解説していますので、是非ご覧になっていただければと思います。

まとめ

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今回は、労災保険における通勤の考え方をご説明しました。

 

労災保険で通勤とみなされるためには、

 

就業に関して3つの移動を合理的な経路および合理的な方法で行う行為を言います

 

通勤の基本的な考え方は、決して難しくはないのですが、移動、合理的な経路および合理的な方法に関して、いくつかイレギュラーな取り扱いをするケースがありますので、注意が必要となってきます。

 

 

 

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